2012年9月17日月曜日

石平氏のメルマガより抜粋。

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■ 運命の分岐点 中国漁船は果たして日本の領海に真に有してくるのか
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9月15日、16日の両日、中国全国で史上最大の反日デモが起きた。
その中で、一部(というよりもかなり多く)のデモ参加者が暴徒化して、
日系の商業施設・企業などにたいして打ち壊しや略奪の限りを尽くした。

このような由々しき事態に至ったのは、中国政府が「日本が中国の領土を奪った」
と喧噪して若者たちを煽り立てたことの結果である。
政府の取りうる「対抗措置」が限られている中で、
北京は結局、「愛国無罪」の若者たちを焚き付けて反日デモを起こらせ、
それをもって日本側に圧力をかけようとしていたのである。

しかし反日デモの「外交的利用」は、中国政府にとっても諸刃の剣である。
デモが打ち壊しや略奪行為の横行に及んでしまうと、
それが確実に中国の国際的イメージのダウンにつながるし、
反日デモの更なる広がりと激化は
いずれか社会全体の安定を脅かすような動乱に発展しかねないからだ。
おそらく中国政府は、9月18日(満州事変記念日)を期に
「反日デモ容認」に区切りを付け、今後はデモの沈静化に取りかかるのであろう。

そして、デモがいったん収まった後には、
いわゆる「尖閣問題」で次の焦点となってくるのはすなわち、
中国の漁船団は果たして、尖閣付近の日本領海に大挙侵入してくるかどうかの問題である。

現在、中国政府が設けた東シナ海での休漁期間が
16日正午に約3カ月半ぶりに解禁された。
中国の国営新華社によると、1万隻余りの漁船が出航準備中で、
天候の回復を待って出航するという。多数の漁船とともに、
農業省漁業局の漁業監視船も漁船の安全確保を名目に出航する見通しだ。

つまり、そのままいけば、中国の漁船団は近日のうち、
当局の漁業監視船に伴って
尖閣付近の日本領海に大挙侵入してくる可能性が出てくるのである

もちろんそれは、中国政府がそれを容認した、
あるいは意図的に奨励した場合の話であるが、筆者の私は実は今でも、
中国指導部は果たしてそこまでやってしまう決意があるかどうか
については多少疑問である。というのは、中国漁船の日本領海侵入は、
あらゆる最悪の事態の発生を招きかねない大変な危険な行動だからである。

中国漁船が日本領海に侵入してくると、
当然、日本の海上保安庁が監視船を出してそれを追い出したり、
場合によっては取り締まったりすることになる。そしてそのプロセスにおいては、
二年前の「衝突事件」のようなぶつけ合いが起きたり
怪我人が出たりするような事態が起きうるのであろう。
あるいは日本側の取り締まりにたいする業務妨害で
中国側の漁民が日本の官憲によって逮捕されることもあろう。

しかしもし、上述のいずれかのケースとなった場合、
収まらないのは中国国内の方であろう。
政府によってすでに火をつけられた民間の「反日運動」は
まさに油が注がれるかの如く、今まで以上の勢いで燃え広がるのであろう。

その一方、日本の領海に侵入してくる中国漁民に
怪我人や逮捕者が出るような事態は当然、日中間の対立を決定的なものにしてしまい、
対立が収拾のつかない状況下でどんどんとエスカレートしていくのである。
場合によって軍事衝突までが起きてしまう可能性はまったくないわけでもない。
そして日中間の緊迫がまたもや中国国内の反日運動の高まりを刺激して、
運動がよりいっそう盛り上がることとなろう。運動の広がりと激化は今後は逆に、
中国政府への大きな圧力となって政府の対日姿勢がより強硬になるよう働き、
さらに日中間の対立を深めてしまう。

つまり、「漁船の領海侵入」というパンドラの箱がいったん開けられてしまうと、
いわゆる「尖閣問題」を巡っての日中間の争いは
出口のない長期戦に発展してしまうだけでなく、中国国内でも、
反日運動の広がりはコントロールの出来ない暴走状態となっていくのであろう。

そうなると、中国国内では、党大会の平穏の中のでの開催や
政権交代のスムーズな遂行は危うくなるだけでなく、
中国という国全体は今の「安定維持・経済中心路線」から大きく離れて
一気に「愛国攘夷」の騒然たるムードに突入していくしかない。
そして対外的には中国はこれで、
日米同盟との正面衝突もありうるような「冷戦時代」に入るのである。

しかしこうなるようなことは果たして、中国共産党政権の望むところなのか。
彼らは果たして、すべてのリスクを覚悟の上でパンドラの箱を開けることが出来るのか。
それに関しては、筆者の私は今でも疑問なのである。

しかし、しかしである。

考え方を変えてみると、上述のような結果となることは、
むしろ今の中国指導部の狙うところである、という可能性もあるのだ。
現在、中国の政治の面では、新しい指導部人事を巡って
激しい権力闘争が展開さしている中、党大会の日程すら決まっていない。
経済の面では深刻な減速が続く中で成長の維持はもはや無理である
そして社会の面では、貧富の格差や腐敗の蔓延にたいする
民衆の不満が高まって爆発寸前の状況となっているのだ。
つまり中国共産党政権は内政上ではかなり行き詰まっていて、
社会的大混乱発生の危険性に直面しているのである。

だとすれば、今の共産党指導部は
国内の不満を外に向かわせて社会的混乱の発生を防ぐためには、
日中関係を全面的対立の方向へと意図的に誘導していくよなうことも考えられるのである。
つまり胡錦涛指導部は今、事態の沈静化を計るのではなく、
むしろ日本側の尖閣国有化の動きを逆に一つの「チャンス」として利用して、
日中間の緊張と対立をエスカレートする方向へと持っていこうと考えているのかもしれない。

だとすれば、中国政府は今後、
中国漁船による日本の領海侵犯を多いに容認する可能性は当然出てくるのである。
いや、「容認」するというよりも、それを積極的に利用しょうとするのである。

しかしもし、中国政府は本当にこの一線を踏み越えて
日中対立の拡大を助長する方へと舵を切るのでれば、
日中間の争いはもはや収束することなくどんどんと激突する方向へと向かってしまい、
それに伴って中国国内の「愛国攘夷」的軍国主義化も止まるところなく進んでいくのであろう。

それこそが、東アジアの平和維持と日本の安全保障にとっての「戦国時代」の始まりであり、
中国国民にとっての自国の地獄の入り口なのである。

アジアの運命となるのか、中国の運命となるのか。
それは今後数日間、中国政府が果たして、
自国の漁船団による日本の領海侵入を容認するかどうかにかかっている。

そして、もし中国はどうしてもこの一線を踏み越えてしまった場合、
日本の主権と日本民族の存続を守っていくためには、
われわれももはや、挙国一致の応戦体制に入っていくしかないのであろう。

( 石 平 )